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電源系
 
4.1 電源系の構成
 電源系は,電力発生装置(太陽電池セル),電力蓄積装置,電力制御装置から構成される.

4.1.1発電方式
 今回の衛星に用いられる発電方式では,太陽電池を用いて太陽光エネルギーを電力に変換する方法を用いる.太陽電池表面の法線方向と太陽方向がなす角を太陽光入射角といい,太陽電池出力は太陽光入射角へ依存する.つまり,太陽方向への射影面積により,太陽電池出力は変化する.

4.1.2電力蓄電方式
 電力蓄電装置は,衛星が地球の影に入る食時とピーク電力に対応するために必要となる.電力の蓄積にはバッテリーを用いる.今回の衛星では,Li-ion電池(リチウムイオン電池)を用いる.日照時には,太陽電池の発電により機器へ電力を供給し,余剰電力をバッテリーに貯める.そして,食時・太陽電池による発生電力不足時にバッテリーから電力を供給する.

4.1.3電力制御方式
 太陽電池セルは,放射線の影響で時間とともに太陽光から電力への変換効率が劣化する.そのため,衛星が用いる発電面積とバッテリー容量は衛星ミッションの寿命末期(EOL)において,所要電力を供給できるようにサイジングする.しかし,そのような設計のもとでは,寿命初期(BOL)の状態では過剰電力を発生しバッテリーの加熱などをもたらし寿命を縮めてしまうので,機器やバッテリーに必要のない余剰電力を外に逃がすシャント方式を用いる.
 日照時には太陽電池から衛星に直接電力が供給され,食時にはバッテリーから供給されるが,これらの電圧は太陽電池の発生出力やバッテリーの放電で変化するのでDCDCコンバーターを用いてバス電圧を一定に制御して機器に供給する.また,機器やバッテリーに電力を供給しても更に余った電力は,シャント機構より放熱する.
これらの,発電方式,電力蓄電方式,電力制御方式を考慮した上で,電源系の回路を図4.1に示す.

 
 
図4.1 電源系回路図

 
4.2 電源系の設計
 電力発生源として使用する太陽電池セルの種類・仕様,アレイ面積,アレイ構成法,バッテリーの容量の決定を行う.そこで,アレイとバッテリーのサイジングについて述べる.
 太陽電池アレイの大きさ(セル数,面積)は,使用する機器の負荷電力を太陽電池寿命末期に供給できるように決定する.
 バッテリー容量は,食の時間と必要な電力・日照時の太陽電池からの供給電力の不足分への対応を考えてサイジングを行う.その際,バッテリーの放電深度(DOD)を考慮する.放電深度とは,100%充電したときの何%まで使用するかを表すパラメータである.バッテリーの寿命は放電深度と充電回数に依存するので,バッテリーのサイジングには衛星軌道上の食の長さと回数を把握する必要があるが,今回の場合はDODは20%として計算を行う.また,太陽電池アレイの発電量の算出には衛星軌道要素が必要である.
 今回の衛星は,地球の赤道面に対して30°の軌道面を進む.また,太陽電池はパネル上面に直接取り付けられている.

4.2.1太陽電池セル
 今回使用する太陽電池セルの仕様と,衛星運用中の条件下(パネル温度50℃)での,セルの効率・出力を表4.1に示す.

 
表4.1 太陽電池仕様 
太陽光強度:Es    W/m^2 1353
 EOL(寿命)    年 10 
 温度    ℃ 50 
アルベド係数    a 0.3 
 地球と衛星の形態係数    Fe 0.3518 
   
 
販売元
型式
トリプルジャンクションセル
Emcore社
ATJ
面積    cm^2 26.6
出力電圧    V/枚 2.300〜2.600 
出力電流    A/枚 0.430〜0.454
出力電力    W/枚 0.989〜1.18
初期効率(28℃での値)    % 27.5
単位面積あたり質量    mg/cm^2 84
 温度係数    % -2
動作電圧劣化/10年 0.90 
動作電流劣化/10年 0.95
BOL(運用初期効率) 26.95

 

4.2.2太陽電池アレイサイジング

@)軌道計算方法
 今回衛星が運用する軌道に関して,日照時間・食時間・軌道周期等のパラメータを表4.2に示す.この際,食時間は一年のうちで最も長い値を用いる.これは,太陽電池アレイのサイジングを行う際に発生電力の最悪値を求めるためである.

 

表4.2 衛星の運用軌道パラメータ

 
太陽の半径:Rs  698000  km
 太陽と地球の距離:ρ  149599000  km
 地球の半径:Re  6375  km
 地球の質量:Me  5.97E+24  kg
 万有引力:G  3.67E-20  km^3/(kg/s^2)
 軌道高度:r  300  km
 近地点  300  km
 遠地点  300  km
 衛星の速度:v  7.726  km/s
 軌道周期:T  90.51  分
 日陰率:μ  40.57  %(Max)
 日照時間:Td  53.79  分
 日陰時間:Te  36.72  分
 食時消費電力:Pe  0.9191  W
 日照時電力:Pd  0.9191  W
 ミッション時増加電力:Pm  0  W
 ミッション時間:Tm  0  分
 バッテリから負荷までの伝達効率:Xe  0.711  
 太陽電池アレイから負荷までの伝達効率:Xd  0.79  ←昇圧回路の伝達効率
 軌道面法線と太陽入射光のなす角 γ    
 90°−太陽同期角 β  30  
 太陽同期角  60  ←10時の軌道
 赤道面と太陽方向のなす角 a  23.5  
 軌道傾斜角−90° θ  -23.5  
 軌道傾斜角  30

 
A)各機器の仕様
 今回の運用で使用する各機器のバス電圧・消費電力・使用時間・使用数を表4.3に示す.
 
表4.3 使用機器一覧 
名称  電圧 V  電圧mW  使用時間  効率 % 使用数 
 マイコン  5  175  連続  -  1
 送信機(ビーコン時)  4.2  399  連続  -  1
 送信機(データ通信時)  5  950  90分/日  -  1
 受信機  5  125  連続  -  1
 温度測定センサ  5  3.5  連続  -  3
 磁気センサ  5  25  連続  -  2
 加速度センサ  5  0.0075  連続  -  3
 カメラ  5  0.198  30分/日  -  1
 LED表示機  5  100  30分/日  -  1
 リアルタイムクロック  5    連続  -  1
 充電回路  -    連続  -  1
 リチウムイオン二次電池  3.7    連続  -  1
 定電圧回路  -    連続  0.79  3

 
B)太陽電池アレイサイジング
 電力計算は,衛星の進行方向が地球の経線方向であり,太陽電池は衛星のパネルに直接貼り付けられているため各パネルの太陽光への射影面積が時間変化する.つまり,太陽電池の発生電力も時間により変化し,その発生電力は各パネルで異なる. 太陽電池の発電には,直接太陽から入射してくる光以外にも地球によって太陽光が反射される地球照(アルベド)も考慮する必要がある.これには,太陽と地球・衛星の位置関係を示す形態係数も必要となる.
 これより,太陽電池が発電しなければならない電力は以下のようになります.

Psa=(PeTa/Xe+Pm1Tm1/ Xe +Pm2Tm2/ Xe +PdTb/Xd)/Td
=(760×36.72×16/0.711+850×30/0.711+550×60/0.711+760×53.79×16/0.79)
/(53.79×16)
=1787mW

Pe:食時消費電力  
Pd:日照時電力  
Pm1,Pm2:ミッション時増加電力  
Tm1,Tm2:ミッション時間
Xe:バッテリーから負荷までの伝達効率 0.711
Xd:太陽電池アレイから負荷までの伝達効率 0.79

Xe=バッテリー伝達効率×DCDC定電圧回路変換効率=0.9×0.79=0.711
Pe=Pd=マイコン+送信機(ビーコン時)+受信機+温度測定センサ×3個+磁気センサ×2個+リアルタイムクロック
=175+399+125+3.5×3+25×2+0.00165=760
Pm1=マイコン+送信機(ミッション時)+受信機+温度測定センサ×3個+磁気センサ×2個+リアルタイムクロック+小型カメラ+LED表示機
=175+950+125+3.5×3+25×2+0.00165+198+100=1609
Pm2=マイコン+送信機(ミッション時)+受信機+温度測定センサ×3個+磁気センサ×2個+リアルタイムクロック
=175+950+125+3.5×3+25×2+0.00165=1310

発電に必要な面積:太陽電池発電電力/(太陽電池セル効率(BOL)×太陽光強度)
=1.787/(0.2695×1350)×106=4911mm^2

発電必要な太陽電池セル数:発電に必要な面積/太陽電池の大きさ
=4911/(26.5×10^2)=1.853枚⇒2枚

アレイ電圧はバッテリー電圧の10%ましとすると
アレイ電圧=充電池の電圧×直列本数×1.2倍
=3.7×1×1.2=4.4V

これより,ストリングのセル直列数は
セル直列数=アレイ電圧/出力電圧
=4.4/2.3=1.857→2枚

並列数=発電に必要な枚数/セル直列数
=3/2=1.5→2

4.3 バッテリー
 今回の設計ではリチウムイオン二次電池を使用するとして,サイジングを以下のように行う.但し,検討に際しては日陰時にミッションを行う場合を想定するものとする.

必要なバッテリー容量(Ah)={機器に必要な電流(A)×一周期の無発電時間(h)}/{リチウムイオン二次電池の保守率×放電深度}
={478×10+365×20+232×6.72}/60/{0.8×0.4}=710 mAh
機器に必要な電流=機器に必要な電力(W)/電圧(V)
(※機器にかかる電圧は全て5V)
リチウムイオン二次電池の保守率:0.8
放電深度:0.4
 これより,バッテリーには,リチウムイオン二次電池一個で十分であることが分かった.そこで,本衛星は,太陽電池2枚を直列として,5並列という設計とし,バッテリーはリチウムイオン二次電池一個という設計にする.

4.3.1 充電の制御方法
 制御フローチャートを図4.2に示す.

 
 
マイコンによる充電状態の制御
EN1  EN2  STATE
 1  0  Iin(MAX)=1A
 1  1  充電停止
 
Iin  入力電流
 Ibat  充電電流
 Vin  入力電圧
 Vbat  バッテリ電圧
 POK=0  入力電源あり
 POK=1  入力電源なし
 CHG=0  充電中
 CHG=1  充電停止中
 
 図4.2 制御フローチャート

 
5 太陽電池

5.1 太陽電池貼付の使用物品
 以下の表4.4に示す.

 
表4.4 使用物品 
 
 物品名  用途  型番  購入先
 太陽電池  電力発電  Advanced Triple Junction(ATJ)CIC  Emcore Corporation
 両面カプトンテープ  構体との絶縁・太陽電池接着  760H #25  株式会社 寺岡製作所
 ハーネス  太陽電池と基盤との接続  MIL-W-22759/11F #24,#28  ウェルリサーチ様からの提供
 インターコネクタ  太陽電池のアノード側端子    NEC様からの提供
 接着剤  インターコネクタとハーネスの固定  #1565+硬化剤D  セメダイン株式会社

 

5.2太陽電池貼付方法
 太陽電池の貼付方法は図4.3,図4.4のように直列に両面テープで真空引きをし、接着する.
インターコネクタとハーネス,インターコネクタどうしの接続は温度管理した半田でつけた後に,接着剤で固定する.
 ハーネスのとりつけは一定間隔ごとにカプトンテープで接着させることにより,道筋をつける.


図4.3 太陽電池接続(正面) 図4.4 太陽電池接続(側面)